米国のVISAに関する情報:非移民ビザの行方は?
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トランプ大統領が非移民ビザの発行を停止する?
さて、今回はこれまでにあまり扱ってこなかったテーマを取り上げます。それはアメリカのビザの問題です。コロナウイルス感染拡大による影響で世界の社会情勢が未曽有の事態になっていることは言うまでもありませんが、その影響が米国の臨床留学や研究留学を目指す人達にも及びつつあります。そして、これらの問題に対して漠然とした不安を抱いている人も多いのではないかと思います。
「トランプがビザの発行を停止することを検討しているって言っているけど臨床留学できなくなるのかな・・・?」
なんて思っている人もいるのではないでしょうか。
そのような不安を抱く方々に僕なりの意見をお届けしようと思い、今回ビザをテーマとした記事に作成するためにペンを取りました。記事を書くにあたり色々と調べましたが、ビザに関する情報は非常に複雑で、実際に当事者として申請しない限りは詳細を把握することは難しいという印象です。今回は僕が調べて得た情報を基に、ビザに関する基本的な知識をお伝えしていきますが、具体的な申請方法などについては触れることができないため、それらの情報を欲している方は他のブログ等を参考にして頂ければと思います。
今回のテーマはUSMLEというよりは、社会情勢に関係するものであるため、僕の専門とする領域とは少し離れています。本記事では、現時点で得られる情報をまとめて、今後の動きを推察してみようと思いますが、恥ずかしながらアメリカの情勢に精通しているとは口が裂けても言えない知識レベルであるため、的外れな推論になる可能性があることをご了承ください。
そもそもビザとは何か?
さて、「ビザってなんじゃそりゃ?」というレベルの方もいるかと思うので、僕の復習も兼ねて、記事で情報をまとめていきます。
そもそも、ビザとは日本語では「査証」と呼ばれ、一言で表現すると「入国許可証」のようなものです。パスポートだけでは入国できない国に渡航する際には、このビザを各国の大使館や領事館で発行してもらう必要があります。アメリカに旅行したことのある方の中には、「アメリカに入国するのにビザなんて発行してもらってないぞ」と思う方もいるでしょう。2009年以前は短期間の滞在であればビザ無しで入国することができましたが、それ以降は短期間であってもESTAという入国審査制度に申請を行うことが義務化されました。
ESTAとは?
ESTAはVisa Waiver Program(VWP)の一環であり、厳密に言えばビザ「免除」プログラムであるためビザとは少し異なりますが、ビザにせよESTAにせよ入国前に何かしら申請が必要になったということです。
旅行目的であればこのESTAで十分なのですが、ESTAには様々な制約があり就労や研究を行うことはできず、滞在期間も最大で90日間と決められています。つまり、このブログの読者の多くが夢にみる臨床留学や研究留学にはESTAでは不十分であり、ビザが必要となるということです。
移民ビザと非移民ビザ
米国のビザは移民ビザと非移民ビザの2つに大別することができます。留学を志す人が最初に申請するのは基本的に非移民ビザになるので、今回は非移民ビザに関することのみを言及していきます。
非移民ビザは18種類もありますが、基本的には医師が留学する時に申請するのはJ-1とH-1Bの2つになります。それぞれ見ていきましょう。
J-1ビザ
J-1ビザは「交流訪問者ビザ」と呼ばれ、主に交換交流プログラムを目的としたビザで14項目に分類されています。中でも多くの日本人が申請するのが「トレーニー」と「インターン」であり、共に米国内でビジネスなどの研修やトレーニングを目的とした項目となります。
臨床留学の場合、レジデンシーやフェローシップは「就労」ではなく「交流」を目的とした研修の一環と捉えることもできるため、J-1ビザ発行の対象となります。
J1ビザは就労ビザ(後ほど説明するH-1Bビザ)とは管轄が異なり、米国移民局ではなく米国国務省の管轄となります。またJ-1ビザのスポンサーはインターンシップ先の企業や病院ではなく、国務省が認可したNPO団体が多くを占めていますが、臨床留学のレジデンシーの場合はECFMGがスポンサーになります。スポンサーであるECFMGは参加者や病院が、州が定めた規定に沿って(就労というか)研修している(またはさせている)のかどうかを観察する義務があります。またフェローシップであってもJ-1ビザを取得する場合にはECFMGがスポンサーになります。
IMGの多くはこのJ-1ビザを取得します。J-1ビザの申請にはECFMGの取得が必須ですが、H-1ビザと異なりSTEP3に合格する必要はありません。さて、J-1ビザは「交流訪問者ビザ」と書きましたが、その名が表す意味は「学んだことを自国に持ち帰ってね」ということです。つまり。一定期間米国で学んだり研修した後には帰国しなければならないという前提があるのです。最長で7年間は滞在することが可能で、その間を利用してレジデンシーやフェローシップに参加することになりますが、その後も滞在を希望する場合には就労ビザ(H-1Bビザ)や移民ビザの申請が必要になります。しかし、滞在を希望する場合であっても、次なるビザを申請するためには最低でも2年間は帰国しなければなりません。これを「Two-year rule」「鉄の掟」と称することもあるようです。
しかし、実際にはWaiver(=免除の意味)と言って、その2年間の帰国を免除してくれるシステムがあります。一定期間、医療過疎地の医療に従事することでその義務が免除できるということです。このようにビザには色々と抜け道があり非常に複雑化しているため全体像を把握するのは非常に困難です。これ以上の詳しい情報は僕にも知るに及ばない領域なので言及するのを自重することにします
H-1Bビザ
Hビザは「就労ビザ」とも呼びます。中でもH-1Bビザは「特殊技能」を持ち、「期限付き」で雇われる人のためのビザです。我々医師はこの「特殊技能」を持っているとみなされております。また、最低でも学士以上の学位を持っていることが前提ですが、日本の医学部を卒業する=学士になるので、日本人医師はこの条件をクリアしています。J-1ビザとの大きな違いはスポンサーが異なることです。Hビザは「就労」するためのビザであるため、「交流」を目的とするJビザとは違い、就職先の病院にスポンサーになってもらう必要があります。そして、H-1Bビザを申請するためにはSTEP3に合格している必要があります。しかし、仮にSTEP3に合格していたとしても、H-1Bビザのスポンサーにならないことを明言しているプログラムもあり、H-1Bビザを取得することでむしろ就職が不利になってしまうこともあるようです。
時にH-1Bビザが移民ビザとされて話が進むことがありますが、米国大使館のページで確認したところやはり非移民ビザで間違いないようです。移民ではない以上は「いつか帰国する」ことが前提にあり、それ故に6年間という期限があります。そのため、滞在の継続を希望する場合にはやはり移民ビザなどの発行をしなければならないようです。
近年のビザに関する動向
さて、ここまでJ-1ビザとH-1ビザに関する基礎的な知識をお届けしてきました。しかし、本記事で本当にお伝えしたいことは、ビザの詳細な情報ではありません。最もお伝えしたいことは、「このコロナの感染拡大が臨床留学を志す日本人達に影響を及ぼすかどうか」という点です。
現米国大統領のトランプ氏は「米国第一主義」を掲げており、失業率の低迷を改善すべく移民の入国を制限し、自国民の就労を優先しようとする傾向にあります。特に「メキシコとの国境に壁を作る」と発表したことは皆さんの記憶にも新しいと思います。元々、そのような傾向の政策であったことに加えて、今回のコロナ騒動によりアメリカの失業率がさらに悪化してしまったのです。その影響を踏まえて、トランプはさらなる規制をかけるために「非移民ビザ」の発行を停止することを考えていると発表しました。その「非移民ビザ」にはH-1Bビザが含まれているため、臨床留学にも影響が出るのではないかと懸念する人もいることでしょう。
しかし、コロナの影響もあり、現実的には今のアメリカの医療現場は逼迫しており医療従事者が足りていない状況になっております。そこで、アメリカ政府は4月にビザの発行を一時停止すると同時に、医療従事者に限っては発行を継続するという方針を打ち出しました。
つまり、基本的に外国人の就労を制限してアメリカ人の雇用を優先しながら、医療従事者のように絶対的に数が足りていない職種に限っては制限を設けないなど、どこまでも「米国第一主義」ということです。
6月13日にトランプ大統領が新たにビザのH-1Bビザの発行を停止することを考えているというニュースが流れましたが、やはり「特殊技能を持った人たち(特に医療従事者)の人材が足りなくなる」という指摘が出ており、これまでの傾向を踏まえると最終的には我々日本人の臨床留学を妨げるような結果にはならないと思われます。
*Twitterのフォロワー様から補足&予備知識を頂いたので追記
アメリカから入国拒否(travel ban)されている国々(シリアなどのムスリム国)の医師には絶対にビザが発行されないようです。ビザはアメリカの政治に深く関わっております。
n米国大使館のビザ発行一時停止
トランプ大統領がビザの発行停止を考えていることとは別に、日本の米国大使館でも感染拡大の予防のために一時的にビザの発行が制限されています。しかし、大使館のページをよく見ると現在でも例外的に発行できるビザが紹介されており、そこに医療従事者のビザも見つけることができます。実際に、この3,4月にビザが発行できた知り合いがいましたので、医療従事者のビザの発行には大きな影響がないと考えます。
臨床留学に与える影響
長々とビザについて述べてきましたが、改めて僕が最もお伝えしたいことは
「コロナによる影響は臨床留学の可能性を狭めるものではないだろう」
ということです。これはコロナに乗じた留学を推奨しているというわけではありません。留学による医療従事者の感染リスクも考慮すべきですし、抗議デモが冷めやらない中、街を歩くだけでも危険を伴います。
そうようなリスクがあることを承知したとしても、アメリカという国や医療に魅力を感じる人が多いという事実は否定できないものかと思います。日本よりもアメリカのほうが住みやすいと感じる人もいるでしょうし、医療の面では世界の先をゆく分野も多々あるでしょう。
人生は選択の連続
人生は選択の連続であり、人は毎日様々な選択をしています。「留学する」と決めることも選択の一つです。留学を志すにあたり、様々なことを考慮して選択をしていきますが、世界情勢も考慮すべき要素の一つに過ぎません。なので、僕は決して「チャンスだから留学しろ」とは言いません。ただ、「ビザは制限されずに門戸はさらに開かれる可能性が高い」という私見のみをお伝えし、皆さんの選択の一助になれたらと思っております。
僕自身がビザの申請を経験していないためにビザ関係の情報収集には非常に苦労しました。恐らく10時間以上はPCと向かい合っていたかと思います。(笑)
繰り返しになりますが、本記事ではビザの詳細や具体的な申請方法をお伝えするものではありません。当ブログの主旨であるUSMLE受験や、それに続く臨床留学の道が完全に遮断されることは無いだろうということをお伝えするために記事にしました。
長々と書き綴ってきましたが、これにて完。
それでは心配をすることはもうやめて、引き続き頑張っていきましょう!
しーや。
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